総務省「自治体のAI利用」報告書の要点|生成AIの使い方・機密情報・体制を整理
自治体で生成AIの導入やルール作りを担当する職員が、総務省のワーキンググループ報告書(令和7年7月)の要点をつかむための記事です。導入状況、利用方法、正確性・機密情報・体制の考え方、国の支援の方向性を整理します。
- 自治体の生成AI導入状況と、挙がっている課題
- 報告書が示す利用方法と、正確性・機密情報・体制の留意事項
- 国による支援の方向性と、動く前の確認事項
- 令和6年12月31日時点の生成AI「導入済」は、都道府県87.2%、指定都市90.0%、その他の市区町村29.9%です。
- 生成AI利用のガイドラインは、647団体が策定済で、1,004団体が未策定です。
- 正確性の懸念には、生成物を人が必ず確認するルールが挙げられています。翻訳や検索などでは、生命・安全に関する機微情報でない限り、誤りの可能性を明示して公開する案もあります。
- 要機密情報では、入力情報を学習させない仕組み(オプトアウト)の徹底が、生成AI特有の配慮事項とされています。
導入状況:都道府県・指定都市は9割前後、市区町村は3割弱
報告書は、総務省の「地方自治体における AI・RPA の実証実験・導入状況等調査」(令和6年12月31日現在)を引いています。
| 区分 | 生成AI「導入済」 |
|---|---|
| 都道府県 | 87.2%(前回 51.1%) |
| 指定都市 | 90.0%(前回 40.0%) |
| その他の市区町村 | 29.9% |
その他の市区町村では、「導入済」「実証実験中」「導入検討中(導入予定あり)」の合計が51.1%(前回39.5%)で、過半数になりました。
活用事例の上位は「あいさつ文案の作成」「議事録の要約」「企画書案の作成」です。議事録の要約で作業時間が半減した事例があります。課題は多い順に、人材の不足、AI生成物の正確性への懸念、導入効果が不明であることです。
利用方法:部局共通から個別業務へ
部局共通では、文字起こし、議事録作成、文章要約などが多く、導入済みの自治体から一定の定量的な効果が報告されています。庁内で優良事例を広く展開し、全国的な共有も進めるのが望ましいとしています。
個別業務では、自治体が蓄積した業務データを生成AIに参照させる仕組み(RAG)が、回答精度を高める上で有効とされています。庁内のマニュアルを学習させ、旅費事務や会計事務に使っている報告があります。専門人材の不在やベテラン職員の退職によるノウハウ不足を補う効果が期待されています。RAGの調達では、複数事業者から見積を取り、価格の妥当性とサービス内容を比較検討することが挙げられています。
生成AI以外の従来型AIやRPAも、橋梁点検の診断補助や入力作業の効率化で効果が確認されています。
正確性:人が確認し、誤りの可能性を明示する
未導入団体からは、正確性の懸念を理由に導入が難しいという声があります。報告書は、利用目的によって求められる正確性の水準が異なることを意識し、生成物を人が必ず確認するルールを設けることを挙げています。
生命・安全に関する機微情報でない限り、翻訳・検索・取りまとめ等に生成AIを使う場合は、誤りが含まれる可能性を明示したうえで出力を表示することも考えられるとしています。外国人向け案内の翻訳が例です。公開後に誤りが判明したら、柔軟に修正する姿勢が求められます。
体制:CAIOとCAIO補佐官の考え方
国は政府ガイドラインに基づき、各府省庁にAI統括責任者(CAIO)を置いています。報告書は、自治体にもAIの利活用とリスク管理の責任者を明確にする必要があるとしています。
- CAIOは組織全体の責任者という位置づけなので、CIOとの兼務が多いと考えられます。
- 専門的知見より調整役を重視する場合は、CAIOを補佐するCAIO補佐官を置く案があります。
- 人材確保が難しい団体向けに、共同設置や、都道府県が確保した専門人材の市区町村への派遣が挙がっています。
要機密情報の扱い:ガイドラインの対策、オプトアウト、サーバ所在国
要機密情報とは、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」で自治体機密性2以上に分類される情報です。パブリッククラウドで扱う場合の趣旨は次のとおりです。
| 分類 | 求められる扱い |
|---|---|
| 自治体機密性2 | アクセス制御、暗号化等の対策(同ガイドライン対策基準8.3)を実施 |
| 自治体機密性3C・3B | 同じ対策に加え、ISMAP登録サービスであれば利用可 |
画一的な約款等への同意のみで使えるクラウドサービスでは、自治体機密性2以上の情報は扱えません。
生成AI特有の配慮として、入力した要機密情報を学習させない仕組み(オプトアウト)の徹底が挙げられています。自治体は、利用するサービスの責任範囲を利用前に整理し、リスクへの対応を検討する必要があります。
サーバの所在国にも注意が必要です。令和7年2月3日に個人情報保護委員会事務局が出した「DeepSeekに関する情報提供」によると、DeepSeek社の生成AIサービスでは、データが中華人民共和国のサーバに保存され、同国の法令が適用されます。国外にサーバがある場合は現地の法令が適用され、現地政府による検閲や接収を受ける可能性があります。
個人情報を含む情報の入力
ワーキンググループでは、適切なリスク対策を講じた上で個人情報も生成AIに入力し、業務効率化を図るのが望ましいという意見が挙げられました。
報告書は、住民の個人情報を扱う自治体の業務には、丁寧で慎重な取扱いが求められると前置きしています。その上で、個人情報保護法上の提供元基準の下では、個人情報に該当するというだけで生成AIの利用を全て否定することは、業務効率化や住民サービス向上にとって必ずしもプラスにならないとしています。前提は、適切なリスク対策を講じることです。
事例として、個人情報を削除またはマスキングしてから要約を作る方法が紹介されています。個人情報保護法の改正等、国のルール整備の動向は注視するよう求めています。
人材育成と国の支援の方向性
人材育成では、AIへの過度な依存が職員の文章作成や企画立案の能力向上を妨げるおそれを挙げています。職員が自力で書けなければAIの出力を評価できないため、研修にこの点を反映するよう求めています。
国による支援は、次の3点です。いずれも提言で、実施の時期は示されていません。
- 総務省が自治体向けガイドラインを策定する。既存の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」に生成AIの記述を追加し、ひな形を別添する。
- 「自治体DX推進参考事例集」などの掲載事例を拡充し、周知する。
- 国の先進的AI利活用アドバイザリーボードで得た情報を、総務省が自治体に提供する。
手続き・判断の前に確認すること
報告書は判断材料を整理したものです。個別の判断は、自団体の情報セキュリティポリシーと所管部署で確認してください。
- 自団体に生成AI利用のガイドラインがあるか。
- 扱う情報が、情報セキュリティポリシー上どの機密性に分類されるか。
- 個人情報を入力する場合、どのようなリスク対策(削除・マスキングなど)を講じるか。
- 利用サービスがISMAP登録サービスか、約款同意のみで使えるサービスか。
- 入力情報が学習に使われない設定か、責任範囲がどう整理されているか。
- 利用サービスのサーバがどの国にあるか。国外サーバの扱いは、個人情報保護委員会事務局の「DeepSeekに関する情報提供」が案内しています。
- AI利用の責任者(CIOやCAIO相当)が誰か。
機密性分類と生成AIの業務利用の留意点は、報告書の参考資料11で案内されています。
次にやること
以下は報告書の内容を踏まえた想定です。
- 庁内のAI利用の現状とガイドラインの有無を棚卸しし、未策定なら総務省のガイドブックの更新を確認する。
- 議事録要約や文案作成など、機密性の低い業務から、利用範囲と確認ルールを決める。
- 要機密情報や個人情報を扱う場合は、リスク対策、利用サービスの条件、サーバ所在国を、情報システム部門と確認する。
出典
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